こころに騙されないために

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【就活】手書きの履歴書がなくならない理由

手書き履歴書

就活をしていて本当に困ることの1 つが「手書きの履歴書」。

もうさんざん言及されつくしているとは思うけど、手間がかかるし、最後の一文字でも誤字したら全部書き直し、という謎の風習。さらに履歴書用紙、プリントされた写真(高額)も用意しなければならないし、郵送の場合その料金(速達の場合電車賃超えることも)もかかる訳なので、ただでさえ交通費で圧迫されがちな就活生の懐に厳しい。時間的にも経済的にも学生側の負担が大きい訳です。

さらに、聞くところによると、企業の人事の方も、紙の履歴書からわざわざ自社のデータベースに情報を手打ちで移しているらしいのです。

普通に考えれば、手書きの履歴書をやめるだけで、全国の学生と人事の方が無駄にしている膨大な時間が有効活用できるようになるので、その時間でバイトなり、趣味なり、就活なりできるようになれば簡単にみんなが幸せになれるでしょう。

今回はどうしてそんな前時代的な文化が未だに残っているのか、どうすればなくせるかについて考えてみます。

 

手書きがいいと思ってる人事なんていないはず

厚切りジェイソンの「手書き履歴書批判」 にホリエモン賛同→意気投合し対談実現へ!? | ホリエモンドットコムブログ

 

 

 手書き推進派の持論は、およそこういうものです。

・「人となり」がわかる

・漢字が書けるか、丁寧な文字が書けるかが大事である

・手書きは心がこもっている

・応募に際しての熱意が判定できる

 とても日本的ですね。どれも経験やスキルといったものを判断するのではなく、熱意や気持ちといった日本的な空気みたいなものを測ろうとしています。

(中略)

  百歩譲って、もしどうしても、漢字を覚えているか、手書き文字が綺麗かどうかといったことをテストしたいのであれば、別途漢検を受けてもらえばいいし、実際にその場で文字を書いてもらったほうがよいです。そちらのほうが、より正確に、的確に、能力をはかることができます。

 でも手書き文字を見ることが大事だという企業であっても、そういうテストは決してしようとしません。いっていることとやっていることが違うのです。ようするに、なにも考えていない、空気だけでそういうことをいっている非合理な企業だということです。

 

大石哲之『英語もできないノースキルの文系はこれからどうすべきか』(PHP研究所、2014)

  

定期的に話題になり、就活・採用・キャリア関連の書籍では、ほとんど頻出といってもいいテーマなので、人事の方なら一度くらいなら読んだことがあるでしょう。そして、だいたいの場合、非合理的だからやめようという結論になっている。仕事として人事をやっている方がこのテーマについて勉強していないことは考えられません。手書きが非効率なのは共通理解なはずです。ここまでを前提として、ではなぜ手書きがやめられないのか、どうすればやめられるのかについて考えます。

採用管理システムが高い 

これまで履歴書の話をしてきましたが、実際には履歴書は使わないという企業もあります。特に大手企業では「採用マイページ」に登録することがほとんどです。このマイページに履歴書情報とエントリーシートを入力することで履歴書の代わりとしているのです。これは、例えばマイナビの採用管理システムであるAOLならマイナビから学生の情報をとってきて埋めてくれるので自動的に名前・生年月日・住所などが埋められて効率が良い訳です。

この採用マイページを支えているのが採用管理システムなわけですが、これが少し高価です。

エントリー管理システムの裏側~マイページ登録はなぜ面倒か~ | 就活総研

採用管理システム比較 | 国内ほぼ全ての採用管理システムの特徴・料金まとめ | HR NOTE [HRノート]

 

これらの記事を読むと、公表されていないものも多くありますが、50〜90万/年以上が相場のようです。90万といういうと中小企業やあまり人数をとらない企業にとってはかなり痛いと思います。年9人しか採用しない企業の場合1人につき9万円も採用コストがかかることになります。これでは使わないという判断もあり得るでしょう。

 

情報リテラシーのない大学生たち

じゃあ、別にマイページじゃなくても、wordで作った履歴書を送ってもらえばいいじゃないかと思うでしょう。しかしながら、ここで問題になるのは学生の情報リテラシーです。私はメールやオフィスソフトの使い方を教えるアルバイトをしているので、大学生の情報リテラシー事情について人よりは詳しいと思うのですが、メールやオフィスソフトを使うことが難しいという大学生は一定の割合で存在しています。そして私の主観ですが、ITスキルと本人の優秀さはあまり関係がないように感じます。

余談ですが、これは大学の教育方針も関係していると思います*1。例えば私の母校である某有名私立大学の理系学部では、未だに手書きのレポートしか認められていません。学生は実験中に書いたメモをレポート用紙に写したり、撮った写真をわざわざワードに貼付けてから印刷し、それを切り抜いてのりでレポート用紙に貼ったりしています。しかもレポートは長いもので40ページとかあったりします。なぜそういったルールになっているのかわかりませんが、これは履歴書問題並みに大学生の時間を無駄にしていると思います。

話がそれましたがそういう訳で大学生はわりとメールでwordの履歴書を送ったり持って行ったりすることに失敗します。そして企業としても送れない学生を無視する訳にはいかないというのが実情ではないかと思います。というのも、履歴書を使うような企業では応募者が少ないことが多いのでせっかく興味をもってくれた学生を逃がせません。また、本質的には優秀さと情報リテラシーが関係ないという考えなのかも知れません。

実は学生が敵か!?

ここまで、人事の気持ちになって考えてみた、手書きの履歴書をやめられない理由について考えてみました。しかしながら、私は私たち学生の方にも原因の1つがあるのではないかと考えています。

sirabee.com

この記事によると、男性の51.3%、女性の69.0%が「手書き派」だそうです。

<手書き派>

・「手書きのほうが、その人柄が見える気がする」(20代女性)

・「Wordで打ったものよりも、手書きのほうが熱意が伝わりそう」(30代女性)

 

どうしてこうなった。まさか、人事の方ではなく、同じ就活をする立場の人間で手書きを好む人がいるとは考えもしなかった。残業するのが好きな人問題と同じパターンな気がします。

 

まずは、この「手書き=人となりを判断できる」という妄想をざっくり否定したいと思います。 

 手書きは就活おいて害しかない強力なノイズ

筆跡学 - Wikipedia

筆跡学(ひっせきがく、グラフォロジー、英語:graphology)とは、手書き文字の分析、個々の心理的特性を推測することを目的とする手法。筆跡「学」がついているので学問と誤認されていることがあるが、統一論理や検証方法が存在しないため、日本での定義としては学問ではない。各個人、もしくは団体がそれぞれに探求している段階である。

「批判」の項目を見ます。

批判[編集]

筆跡による性格診断は単なる錯誤相関であり[3]疑似科学の一種である[4]

筆跡学の信頼性を調べた多くの研究で、筆跡と性格は無関係という結論が出ている[3]。書かれている内容を同一にするなどして筆跡以外の手掛かりを排除すると、筆跡鑑定家による性格及び仕事の能力予測は、偶然以下の精度になってしまう[5]。さらに、同一人物が書いた別の筆跡に対して別の性格描写を行うなど[6]、安定性にも欠ける。

ばっさり斬られています。この記述の参考文献として示されているのはこの2冊です。

本当は間違っている心理学の話: 50の俗説の正体を暴く

不合理 誰もがまぬがれない思考の罠100

1つ目の本は私も読んだことがありますが、信憑性もそこそこありテーマも面白い本だと思いました。

 

Wikipediaを貼って終わりではまあ乱暴すぎるので、インターネットで読める論文も探しました。

ci.nii.ac.jp

インターネットで探して見つかる論文の中では、この論文が比較的新しめで、かつ内容も詳しいものだと思います。この論文で検証されているのは、文字を見た人が予想する書き手の性格と、実際の書き手の性格がどこまで一致するのかというものです。

結論からまとめると、まず、文字の筆跡と書き手の性格に相関がないことが分かりました。これは、近年の似たような研究ではほとんど一貫して相関がないという結果が出ています。逆に、読んだ人が予想する書き手の性格と筆跡では、いくつかの項目で相関がみられたということです。つまり、筆跡と性格は関係ないけれども、ある筆跡を見たときに人間が予想する書き手の性格はある一定の方向性があるということです。これは日常的な感覚とだいたい同じだと思います。

では、「文字から予想された性格」と「書き手の実際の性格」が一致するのかというと全然そんなことはありませんでした。むしろ、全く異なる性格が予想されることすらありました。例えば「実際の性格」で「調和性*2」の項目が高い人は「文字から予想された性格」では、「情緒不安定」や「誠実性」の項目が高い、あるいは「外向性」の項目が低いと予想されるという傾向がありました。

 書き手の実際のパーソナリティ特性の査定結果と照らし合わせると、手書き文字の感性印象と「筆跡から想像される性格」の各パーソナリティ特性との間に見られた相関は事実としての根拠が確認できなかった上、そのほとんどが感性印象とパーソナリティ特性との「実際」の相関から逸脱して認知されたものであったことが明らかになった。

 

また、筆跡から推測された書き手のパーソナリティ特性の個人差は、同じ特性における書き手の実際の個人差とほとんど一致しないものであり、また実際のパーソナリティ特性の違いから生じた筆跡の変動が別のパーソナリティ特性における個人差として解釈される可能性も示唆された。一般の人が行なう筆跡からのパーソナリティ特性の推測は、プロセスが誤謬的であるだけでなく結果にも妥当性を欠いており、信用性の低いものであると言うことができよう。 

 

要は意味がないどころか有害なのです。やってもやらなくても変わらないけど、やらないとどうしても気が済まない、というのならまあなんとか付き合ってあげようと思わなくもないかも知れません。しかし有害となると話は別です。多大な時間というコストをかけて、面接官に誤解を与えるようなバイアスを生み、企業と学生のマッチングにノイズをかける可能性があるというデメリットを受けとるという取引です。ふざけるなよ。

 

しかし、ここまで言っても、理解してもらえない人もいるでしょう。

字が上手くて暇な人にとって手書きは既得権益

世の中には字が上手くて、自分の字が良い印象を生むことを理解していて、それを活用して生きてきた、そして暇だという人がいます。

そういう人にとっては手書きこそが自分の土俵なので、なかなかそこからおりようとしません。面接官の方も、手書きの履歴書があるとそっちの方に注意がひかれてしまいます。また、我々電子派が勇気をだしてなんとかwordなどで作成した履歴書を提出しても、手書きの履歴書と競争させられるとなるとやはりビビります。

鞄の色とかネクタイピンの有無とか、倍くらいの値段の就活用?のスタイルがよく見えるワイシャツ*3にしようかとか、どうでもいいことで悩んでしまう就活生なので、手書きの履歴書が跋扈する現環境でword等で作成した履歴書を出すのは相当勇気が必要です。このままでは一生多数派になれません。

手は1つです。手書き禁止。これしかありません。

誰か一人でも手書きをする可能性がある環境では電子化は不可能です。

就活生はみんな同じ悩みを持っていますが労働市場では敵同士なので団結できません。

横並び一線で全員同時に電子派にならないと日本人は変わりません。

マイナビさん、一応広告業ならPR戦略お願いします。手書きは非効率、カッコワルイという空気を作るのです。日本の大学生の時間を取り戻しましょう。手書きよりはマイナビの土俵に近いからそれこそ履歴書テンプレートやらなんやらでビジネスにつながるかもしれませんよ。

マイナビがだめだったらもう法律を変えるしかありません。経団連の言うことはだれも聞きません*4し電子派OB有志でロビー活動するしかありません。

 

冗談みたいな結論になってしまいましたが私は本当に深刻な問題だと考えています。

少なく見積もって手書き履歴書が1時間よけいに時間がかかるとすると、就活生の平均エントリー数が30社*5で就活生が40万人*6とすると、年間1200万時間が無駄になっています。これを日本の最低賃金の714円で換算すると年間85億円です。これがどのくらいかというとコンドーム市場*7を軽々超えるくらいです。やべえよやべえよ。

 

そんじゃーね。

 

 こういう面接官でもないのに上から目線でコメントしてる人のせいで誤解されがちだけど実際の面接官はもっと考えてくれてると思うんだよな。人事はプロだもの。

 

「手書きを求めるような企業は受けなくていい」という意見もありがちですが暴言だと思っています。手書きを求めるとこはすべからく悪い企業ではないことは少し考えれば分かります。「電子の履歴書で落ちるならその程度の企業」も同様です。新卒採用では一度しか同じ企業を受けれないので、ほんとうにいきたい企業の場合、安全策をとって手書きにするしかありません。

 

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*1:そういえば、公式の履歴書用紙は大学毎にありますが、Wordで使える履歴書フォーマットを用意している大学は少ないですね

*2:ここでいう「調和性」や「誠実性」は心理学ではビッグ・ファイブと呼ばれる指標で、文化差や民族差を超えた普遍性をもつものとされています

*3:AOKIで売ってた

*4:就活の解禁時期については私は現状のまま企業によって色々でいいんじゃないかという考えですが

*5:

就活生の平均エントリー数と内定数の関係性|キャリアパーク[就活]

*6:

データでみる就活:朝日新聞デジタル

*7:69億円、2014年国内出荷金額ベース