こころに騙されないために

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自称心理学徒のブログ

企業と学生で「コミュ力」の定義が違う?:就活心理学

この人、なんで就活終わっているのにまだ就活の話題しているんだろ、と思われてしまっているかもしれませんね……。

私にとって「就活」はものすごく面白いテーマなのです。

まず、選考というは、心理学的要素がとても強いやり取りです。コミュニケーションをして、相手から求められているような反応を返す、時には嘘をつく。心理学の実践として面白い場面です。それに、ただ単に好印象を獲得するにも、自己PRや面白エピソード、話術、ビジュアルなど、人それぞれ異なった戦略で挑みますし、企業としてもそれぞれ異なった採用基準を使っています。そういった不確定要素が多い状況でありながら、それでも一般的な方法論のようなものは確かにある。実力と運のバランスがすごく絶妙で、よくできた仕組みなんです。もちろん、就活中はそんなこと考えている暇はなかったですし、今は自分が一歩離れた立場であるからこそできる発想ですが……。

そんな私は、卒論でも就職活動と大学生活について、心理学な側面から研究することに決めました。教授の計らいで、かなり大規模なデータを分析できることになったので、今から楽しみです。このブログでもしばらく就活に関する話題が続くかもしれません。

 

今回はコミュニケーション能力に関する話題です。

コミュニケーション能力といえば、経団連の調査で新卒学生に求める能力として毎回一位になっていることで有名です。

16年4月入社対象の採用選考にあたって特に重視した点(20項目から上位5つを選択)で最も多かったのは「コミュニケーション能力」で、13年連続で第1位となった。

「新卒採用に関するアンケート」結果を公表 (2016年11月24日 No.3294) | 週刊 経団連タイムス

大学生の間でも、「コミュ力」が一つの能力値として認められているような雰囲気はあり、「俺、コミュ障だし……」「あいつはコミュ力あるからなあ」みたいなセリフはキャンパスでもよく聞きます。

私自身は自宅浪人時代に完全にコミュ力リセットされ、大学入学後すぐの時期は友達ができずに不登校になったりしました。就活では早めに面接の練習をし始めてなんとか切り抜けたというクチです。

ただ、自分の就活とその後に読んだ就活本などから、大学生の思っている「コミュ力」と、企業の求めている「コミュニケーション能力」が実は全然違うものなのではないかなと思い始めました。周りの友人を見ていると、かならずしも「コミュ力」がある人気者がうまくいっているというわけではなさそうなのです。逆に完全にコミュ障タイプの私は、意外と面接が得意な方です。

 

コミュニケーション能力の方向性 

学生のコミュニケーション能力がない・足りていないなどとはよく言われていますが、量的な問題ではなく、質的なものが最初から違うのではないかと感じました。

 

考えてみれば当然ですが、企業の目的は利益を上げることで、そのためのコミュニケーションには戦略的・効率的な情報交換や議論が必要になります。つまり、社会人のコミュニケーションは「目標達成」のためにあるものです。

一方、学生のコミュニケーションの目的は、テスト前などは情報交換もあるかもしれませんが、ほとんどは「仲良くする」ためのもの。いわゆる「毛づくろい」的な内容の薄い雑談がメインなのではないかと思います。大学生活ではチームで目標を共有するプロジェクトのようなものはそんなにありませんから、とにかく集団から排除されないように嫌われないための雑談力や空気を読む力が重要になるのだと思います。

 

はてなブログでは有名な、精神科医であるシロクマさんも、内容のないコミュニケーションの重要性について論じています。

人間同士のコミュニケーションのなかで、「コミュニケーションの内容」が本当に問われる場面はそんなに多くない。
 
 もちろん、業務上の指示やディベートの際には、内容こそが重要になる。しかし、日常会話の大半は、コミュニケーションの内容よりも、コミュニケーションをしていることのほうが重要だ。

 その典型が、「おはようございます」「お疲れ様でした」「おやすみなさい」といった挨拶のたぐいだ。 

 挨拶には内容は無い。昔は、“お早うございます”にも内容があったのかもしれないが、もはやテンプレート化している今では、無いも同然だろう。だが、社会人になったら真っ先に挨拶が問われることが示しているように、コミュニケーションに占める挨拶のウエイトは馬鹿にできない。

 日和や季節についての会話や、女子高生同士のサイダーのような会話も、しばしば「内容のない会話」の例として槍玉に挙げられる。しかし、交わされる言葉の内容そのものにはあまり意味が無くても、言葉を交換しあい、話題をシェアっているということ自体に、大きな意味がある。

(中略)

人間は、「私はあなたの存在を意識していますよ」「私はあなたとコミュニケーションする意志を持っていますよ」と示し合わせておかないと、お互いに不信を抱いたり、不安を抱いたりしやすい生き物だ。だから、会話内容がなんであれ、お互いに敵意を持っていないこと・いつでもコミュニケーションする用意があることを示し合わせておくことが、人間関係を維持する際には大切になる。

p-shirokuma.hatenadiary.com

 

 20年かけてコミュ障を克服したと語るアナウンサーの吉田尚記さんも、著書で同じような結論に達しています。

結局、コミュニケーションの目的はコミュニケーションであると、ぼくは思う。

吉田尚記『なぜ、この人と話をすると楽になるのか』より

 

 

会議や討論ではない、日常生活で行われるコミュニケーションは、その「内容のなさ」が大事。

逆に言えば、就職活動で行われる面接やグループディスカッションは、それまで内容のないコミュニケーションが重視される大学生活を送っていた大学生にとって、久しぶりに触れる「内容のあるコミュニケーション」であるということです。

 

心理学と経営学のリーダーシップ研究における理論であるPM理論の考え方も、このコミュニケーションの考え方に似ています。

PM理論とは、リーダーシップは「P機能(Performance function:目標達成機能)」と「M機能(Maintenance function:集団維持機能)」の2つの能力要素で構成されているという理論。三隅二不二氏が提唱した。

P機能とは、メンバーへの指示や叱咤激励などにより、目標を達成する能力をいう。一方、M機能とは、人間関係に配慮し、集団のチームワークを維持・強化する能力をいう。

PM理論とは | ビジネススクールならグロービス・マネジメント・スクール

これはいわば、リーダーのコミュニケーションの様態を整理したものと考えることもできます。P要素の強いコミュニケーションが、内容のあるコミュニケーションで、M要素の強いコミュニケーションが内容のないコミュニケーションです。

 

「コミュ力」がある人が、コミュニケーション能力がない、と思われる

社会人である面接官は、業務の一部である採用面接において、学生にPとM両方揃った(どちらかと言えばP重視の)内容のあるコミュニケーションを求めます。それに対してP要素の強いコミュニケーションに慣れていない学生はちぐはぐな対応をしてしまうかもしれません、あるいは、これまで通りの内容のないコミュニケーションでごまかしてしまうかもしれません。これが、社会人の目には「コミュニケーション能力がない・足りない」というように映ってしまうのではないでしょうか。実際には、求めているコミュニケーションが質的に異なっているのです。

これによって、飲み会の盛り上げ役で、誰とでも仲良くできるような「コミュ力」のある学生が、就活で返り討ちにあうというようなことが起こるのではないかと思います。

 

目標達成のためのコミュニケーションとしては「ほうれんそう(報告・連絡・相談)」とか、ロジカルシンキングとか「結論から話せ*1」などが一般的です。内容のあるコミュニケーションになれていない人は、そういった部分に注目して練習すると、成果がでるようになるかもしれません。

 

 

 

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*1:大阪の人は話の最後に絶対オチをつけると言いますが、これなんかは完全に真逆のコミュニケーション形式ですね。