こころに騙されないために

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『嘘と欺瞞の心理学』嘘を見破る技術とメンタリズム

 

嘘と欺瞞の心理学 対人関係から犯罪捜査まで 虚偽検出に関する真実

嘘と欺瞞の心理学 対人関係から犯罪捜査まで 虚偽検出に関する真実

 

心理学で心は読めるの? 

心理学を勉強していますと言うとたまに、「え、じゃあ心が読めたりするんですか〜」と言われたりします。あれって、冗談のつもりにしてもだいぶ迷惑している人が多いと思います。だって、心理学を勉強したら心が読めるって、経済学を勉強したら億万長者になれるとか、政治学を勉強したら総理大臣になれるとか、物理学を勉強したら物理法則を操れるとかと同じレベルですからね……。テレビでメンタリストDaiGoさんなどを見ていると勘違いしてしまうのはわかりますが……。

 

嘘を見抜くこともやはり難しい

そんな訳で、心理学を勉強しても心を読むことは難しいです。それがよく分かるのが、虚偽検知(嘘を見抜くこと)を扱ったこの本『嘘と欺瞞の心理学』です。600ページ以上のボリュームで、ありとあらゆる嘘研究について詳しくまとめられています。

 

ただ、この本を読んで分かるのは、こうすると嘘を見抜けるぞ! というノウハウではありません。むしろ、とにかく嘘研究は難しい、ということがわかります。言葉に注目しても、体の動きに注目しても、生理学的な分析を用いてもとにかく難しい。それでもなんとかちょっとずつ分かってきたことはこのくらいですよ、と。そんなテンションの本です。

 

 

嘘研究が難しいのは、変数が多すぎることが原因だと思います。性格や嘘に対するイメージ、関係性、言葉使いなどなど、嘘研究でチェックすべき項目がとても多い。これまでの行われてきた数々の実験も、それらの変数を完璧に調整して統制できている訳ではないので、なかなか信頼性に疑問があります。

例えば、「人は嘘をつく時、目をそらす」という信念を持っている人は、嘘を見抜く時視線を重点的にチェックしますし、嘘をつく時は当然ばれないように目をそらさないようにします。でも、実際には目をそらすかそらさないかは、ほとんど嘘と相関がありません。もちろん嘘をつくとき目をそらす人もいますが、そらさない人も同じくらいいるのです。

加えて、状況によっても変わります。自分を守るために嘘をつく時は目をそらさない人も、相手を傷つけないようにお世辞を言う時は目をそらすということもあるかもしれません*1。このように「人によって違う要素」と「状況によって違う要素」があまりにも多すぎるので、研究も難航しているということです。

報告された知見は一貫性に欠けていて、研究間で結果に矛盾が多いことが示されている。

(中略)

つまり、ピノキオの伸びる鼻のような手がかりは存在しないことがわかる。

アルダート・ヴレイ『嘘と欺瞞の心理学』P.70~71

メンタリストDaiGoはどうやってるの?


DaiGoがババ抜きの心理戦をニコニコで最速解説! 1/4

 

じゃあメンタリストDaiGOはどうやってるの? めちゃくちゃババ抜き強いじゃん、と思うかもしれません。しかし、あれは科学的心理学研究とは別の話です。彼のパフォーマンスは「あの関係性、あの場所、あのルール」において最適化された技術なので、研究に応用したり実践で使ったりすることは難しいと思います。簡単に言えば職人芸ということです。

素人が現実の場面でメンタリストのパフォーマンスのように華麗に嘘を見抜くことはほとんど不可能だと思います。実際DaiGoさん自身も、ババ抜きでは強いけれども、人狼ではなかなか嘘を見抜けず苦戦するという番組が以前ありました。ババ抜きのパフォーマンスはDaiGoさんがすごいのも確かではありますが、「あの状況ありき」でもあるのです。

そもそも、現実の嘘というのはトランプのように白黒はっきりしているものばかりではありません。例えば浮気をごまかすための嘘なら、浮気の程度(好きになってしまっただけなのか、デートしたのか、あるいは……)によって嘘をつく時の反応も複雑に変化します。

それにトランプにしても、番組のように大きなサイズのカードを、立ててプレイすることはほとんどないでしょう。あのサイズのトランプを離れたところに立てて使うことで、視線や体の動きが観察しやすくなり、顔をカードで隠すこともできなくなります。また番組では、他の出演者や観客から一挙手一投足を見守られ逃げ出すこともできない状況のなかで、これまで何度も勝ってきたメンタリストを前に戦うことになります。これだけのプレッシャーを現実で演出することは難しいでしょう。それに、メンタリストは相手の性格や体の動きと表情の癖を徹底的に研究しています。あの空間はメンタリストが勝つために設計された空間なのです。相手はあの席に座った時点で負けているとも言えます。

さらに言えば、メンタリストDaiGoさんは嘘を見抜く技術以外に暗示も使います。相手に選ばせたボールの色を見ずに当てるというパフォーマンスを見たことがある方も多いでしょう。「無意識にボールを選ばされている」というパフォーマンスです。あれと同じように、相手がババを置く場所を暗示でコントロールしています。こうなると、どこまでが嘘を見抜いた成果で、どこまでが暗示による成果かわかりません。

 

こういったその場限りの職人芸は、科学的に分解したりいろんな状況に応用したりすることは今のところは難しいということなのです。

 

 

表情分析

ただし、職人芸のなかでも、「表情分析」は心理学で以前からよく研究されているツールです。メンタリストDaiGo自身もポール・エクマンの『表情分析入門』が参考になると話していました。

表情分析入門―表情に隠された意味をさぐる

表情分析入門―表情に隠された意味をさぐる

 

 「表情分析」という言葉の響きはなにやら恐ろしく怪しい学問のようですが、いたって真面目な分野です。感情心理学の第一人者であるポール・エクマンが人間の表情の動きについて整理した、表情のカタログのようなものです。当然、嘘をつく時に特徴的な表情についても解説されています。メンタリストDaiGoもこれを参考にしていると思われます。ただし、表情分析の手法で嘘を見抜けるようになるには専門的なトレーニングを長期間受ける必要があるとされています。

もちろん『嘘と欺瞞の心理学』でも、表情分析は取り上げられています。表情分析の功績は嘘研究のなかでもある程度評価はされていますが、いろいろな状況に対応できるほど汎用性が高いとは考えられていないようです。

 

表情分析に関してはビジネス向けに簡単にまとめられた書籍がいくつか出ているので、興味があったらぜひ読んでみてください。

 

微表情を見抜く技術

微表情を見抜く技術

 

 

今度就活面接における嘘についても、この記事から発展させて書いてみようかと思います。

 

 書きました↓

 

rutei.hatenablog.com

 

*1:そもそもお世辞は嘘なのか? といった嘘の定義に関しても研究ごとにバラツキがあったりします